担当教員:田中仁

8月24日に春日キャンパスで行われたオープンキャンパスでは、視覚障害当事者研究の体験授業が行われました。
講師は、ブラインドの数学者で「調和解析」の分野で研究をしている、田中仁先生です。
田中先生としては、本当は専門である数学の授業をやりたかったようです。数学はとても楽しい学問で、自分の頭で考えて、自分の言葉で理解することの楽しさがあるとのこと。
ただ、数学の研究は普通にはできません。そこで、考えることの楽しさを共有するために、「視覚障害当事者研究」を皆さんと共に試みたいという説明がありました。
なぜなら、視覚障害を持つ私たちは、最初から研究者としての資格を有しているからです。期せずして我々は視覚障害のお陰で唯一無二の特別な視点を与えられていて、その視点からの研究、「視覚障害当事者研究」を進めてみても良いはずなのです。

このような導入の後、当事者研究の「方法的態度」に関する説明がありました。
方法的態度とは、何かトラブルのようなことが起きたときに、犯人を探し出して解決とするのではなく、あくまでも苦労のメカニズムを探ることを重視する方法です。この方法論的態度のことを当事者研究では、「外在化」と呼んでいます。
また、外在化の他に、当事者研究においてもう一つ重要な方法論的態度として、「仲間の力」を重視することが説明されました。外在化という方法も、一人ではなかなか可能になりません。他者の視点を通して初めて、出来事を人ごとのように観察できるようになる場合が多いのです。
当事者研究の授業では、行為や状況を「現象」として捉えた上で、その現象の研究成果を仲間に向けて発表します。そして、発表を通じて、自分がいったいどういう困りごとを抱えて仲間と共有し、なぜそうなっているのかを共に研究、解明していきます。

このようなプロセスを通して自分の頭で考え、自分の言葉で理解することの楽しさを共有する。「視覚障害当事者研究」は、そんな授業であることが説明されました。

出典:〈責任〉の生成―中動態と当事者研究
國分功一郎、熊谷晋一郎、新曜社、2020年11月22日
(ISBN: 478851690X)

教壇で説明する田中先生と受講生