インタビュー 学部長補佐 伊藤和之(いとうかずゆき)
先生のご専門は何ですか?
●患者さんと視覚障害鍼灸師とのコミュニケーションに着目して
長く取り組んだ教育について触れます。
年齢、学歴、職歴も様々な中途視覚障害者のクラスで国語科教育を行っていた頃、社会人経験は長いが人とのコミュニケーションは苦手、という方によく出会いました。
特に、鍼灸の臨床実習で、患者さんから施術に必要な情報が的確に得られないケースや、辛い気持ちに寄り添えないケースが多かったのです。
そこで、患者と鍼灸師のコミュニケーションの基礎から実技評価まで、教育システムの確立をテーマに、教育・教材研究を重ねました。その結果、鍼灸臨床における医療面接という医療コミュニケーションの一分野の開拓に寄与することができました。
新学部ではどのような授業を担当するのですか?
●「自分を造り上げる」ために
視覚障害学概論、障害補償演習、障害者の就労と社会、共生社会演習、共生社会創成特別研究のほか、日本語表現法、コミュニケーション演習、文学といった科目に力を入れます。これらの科目が、共生社会創成に挑む学生諸氏の「Bildung」、すなわち、感性豊かな人格、学び続ける習慣を造り上げていくための栄養になることが願いです。
●自己を深く見つめ、自分を表現する言葉を持つ
「日本語表現法」では、主に「読む」「書く」を意識し、国語学(日本語学)の知見を背景に、日本語への理解を深め、磨きます。
「コミュニケーション演習」では、主に「聴く(聞く)」「話す」を意識し、対人コミュニケーションと、コミュニケーションの一部であるプレゼンテーションについて、実践的に学びます。
「文学」では、様々な時代の作品を通して社会的弱者に焦点を当て、人の死と生について考察します。
「障害補償演習」では、学生個々の障害特性、ニーズ、主体性に基づき、情報支援機器等の習得を目指します。
「視覚障害学概論」では、視覚障害児・者の教育、リハ、就労の現状や法制度などについて、「障害者の就労と社会」では、広く、障害を持つ人々の就労の実態について理解を深め、社会参加、社会創りを主体的に考える態度を身に付けます。
「共生社会演習」は、「共生社会創成プロジェクト実習」などと連動します。視覚障害者同士、他障害者及び健常者とのコミュニケーション、他者との協働に伴う課題解決、相互理解等を実践的に学び、共生社会創成の推進手法について議論します。
座学と実践の円環を成します。
共生社会創成学部の受験を考えている学生へのメッセージをお願いします
●共生社会創成学部とは
共生社会創成学部という名称は、学部の理念を物語っています。
共生社会とは、性別、国籍、人種、そして障害の有無など、多種多様な背景を持つ私たち人間同士が、共にその存在を尊重し、私たち一人一人が、無理をせず、自然と力を発揮できる社会です。共生社会創りに携わる人に育つための土壌。それが共生社会創成学部です。
別の言い方をすれば、「ダイバーシティ&インクルージョン」の考え方に支えられた社会の実現に資する学部です。
ニュースなどで、働く人の多様な背景に目を向けた取組み、たとえば、子育て世代の人々の働き方改革、外国の方や高齢の方の雇用や社会生活に関する報道などに接したことがあると思います。同様に、障害を持つ人々の働き方や社会生活の変化を目にする機会も、一見増えたように感じられます。
しかし、「ダイバーシティ&インクルージョン」という考え方は、まだまだ社会の「標準」、つまり「当たり前」にはなっていません。ニュースに取り上げられないほど、当たり前になることが理想です。
●共生社会創成のために
共生社会を現実のものとするためには、その言葉の意味と意義を知り、共有し、実現しようとする人と人との力が、継続的に必要です。同じ時代を生きる老若男女、様々な人の力、役割が必要です。人と人との協働には、親しさ、可笑しさがあり、時には激しい議論に及ぶ場面もあるでしょう。その先に、どのような形の社会が現れるのか。予測できないところにも、愉しみがあります。
何かを成すには、困難は付きもの。それでも、一個の人間として、多種多様な背景を持つ人々と一緒に、未来を、理想を描き続ける人生。熱く、尊いです。