2024年度図書館総合展 読書の際に使用する機器館外貸出に関するご提案

目次

筑波技術大学読書バリアフリーコンソーシアムテクノロジーハブ

井上眼科病院 石原純子

オーテピア高知声と点字の図書館 坂本康久

NPO法人ICT救助隊 仁科恵美子

NPO法人スラッシュ 山賀信行

2024年度図書館総合展において、テクノロジーハブは、テクノロジーを活用した読書にチャレンジするきっかけ作りを目的に、図書館が館外貸出のために揃えておくと良い機器に関する情報提供をいたしました。様々な読書支援機器の操作方法、貸し出し方法、貸し出し時契約文書、メンテナンス等についても記載しております。また、一つの事例として、簡単操作機器セット、操作の説明や補助を必要とするが便利な機器セット、学校図書館向け機器セットの3パターンを展示いたします。よろしければご参照いただき、日々の業務にご活用くださいますと幸いです。


1 読書の際に使用する機器館外貸出に関するご提案

1.1 提案の背景

本や新聞、雑誌、インターネットの記事等を読む方法はたくさんあります。障害者手帳を持っていてもいなくても、視覚障害でもそれ以外でも、いろいろな方法の読書があります。

しかし、その方法を知らない人がたくさんいます。テクノロジーハブのスタッフは大学で働いていますが、高校までの課程で自分に合った読書方法に出会わず、読むことを諦めてきた学生にもたくさん出会います。その状況を放置すれば、学校を卒業した後も情報にアクセスしづらい状況が続きます。

一方、本を作り販売する側も、テクノロジーを活用すれば読むことができる書籍の製作方法を理解していません。出版社や書店だけでなく、公共機関も、方法を知らないために、様々な読み方に対応しない形で情報提供する組織が後を絶ちません。

だからこそ、テクノロジーハブは図書館の皆様にお願いします。市民にとって身近な存在である図書館で、いろいろな読書方法にチャレンジするきっかけを作ってほしいのです。

昨年度テクノロジーハブで実施した調査では、図書館が様々な読書支援機器を備えていることを知りました。しかし、貸し出している組織は少ないです。そこでテクノロジーハブは、読書の際に使用する機器の概要を紹介するとともに、利用者のニーズに応じたかたちで蔵書とテクノロジーをセットにして貸し出すためのご提案をいたします。

今までの図書館業務とは異なる内容があるかもしれませんが、ぜひご検討ください。そして、読書を諦めてしまいそうな人々や、読むことを諦めてしまった人々に、読書を通じて得られる豊かな世界への扉を開いてください。

なお、今回の展示で紹介するセットはあくまでも一例であり、この他にも様々な読書支援機器の組み合わせが考えられる点にご注意ください。

1.2 本提案で取り扱う読書支援機器

1.2.1 音声読書機

音声読書機は紙の本を音で聞いて読むための道具です。備えておくと、蔵書とセットで貸出することで、すぐに利用できる点が特徴です。コピー機でスキャンする時のように本の文字を読み取り音声化するタイプ(よむべぇ等)と、紙面を撮影して本の文字を読み取り音声化するタイプ(エンジェルビジョンデスクトップリーダー等)があります。コピー機型は、読み取り精度が比較的高いですが、重く、貸し出しに向かない製品が多いです。撮影型は軽量化されていますが、部屋の明るさ等によって読み取り精度が左右されます。

購入を前提としたレンタル、あるいはサブスクリプション契約を準備しているメーカーがありますので、必ず事前に読み取り精度を確認してから購入してください。

1.2.2 デイジー機器

デイジー機器は、デイジー図書を読むための機器ですが、他にもMP3やテキストデータに対応しているものがあります。自館で製作したデイジー図書を格納したCDやUSBをセットにして貸し出したり、みなサーチやサピエ図書館等で検索し、デイジー図書等を貸し出している他館からデータを入手して、機器に保存した状態で貸し出したりすることができます。

据え置き型の製品(プレクストークPTN3等)は操作を簡易化するためのカバーが付属していたり、携帯型の製品(ポケブックVine C1等)はボタンが6つのシンプル構造だったりと、直感的に操作することができる点が特徴です。

1.2.3 タブレット/スマートフォン

タブレットやスマートフォンのOSは、iOS、Android、Chromebookがあります。一台あれば、市販されている電子書籍を、電子書籍ビューア、電子図書館、デジタル教材アプリ、スイッチ等を活用して、様々な方法の読書を体験することができるようになります。また、紙の書籍とアーム、拡大鏡アプリと組み合わせ、見え方を調整して読むこともできます。

しかし、タブレットやスマートフォンはOSによって価格やサポートの難易度、対応しているアプリの幅が異なります。それぞれの図書館の実情を踏まえてご検討ください。

1.2.4 電子書籍ビューア、電子図書館アプリ

電子書籍ビューアや電子図書館アプリは、JIS X 8341:3-2016[1]というJIS規格に基づいて設計されているものを調達してください。このJIS規格は、国立国会図書館「電子図書館のアクセシビリティ対応ガイドライン1.0[2]」においても指定されています。現時点では、電子図書館アプリの中では、LibrariE & TRC-DL等が同規格に対応していることを明記しています。電子書籍ビューアに関しては、例えば、Kindleアプリが対応しています。(日本語版Kindleは一部非対応)

1.2.5 拡大鏡アプリ

拡大鏡アプリは、「拡大鏡」「Rebokeh」など様々なものがあります。どちらもフリーソフトで、「拡大鏡」はiOSにプリインストールされています。タブレットやスマートフォン用アームで固定して拡大鏡アプリを活用すれば、拡大読書器の代わりとして使用することができます。このため、紙の書籍を拡大鏡アプリ、スマートフォンやタブレット、それを固定するアームとセットにして貸し出すと良いでしょう。スマートフォンが普及していますので、利用者が所有している機器を読書に活用することができると気付くきっかけにもなります。

1.2.6 デジタル教材アプリ

本提案におけるデジタル教材アプリとは、教科用特定図書を、PC、タブレット、スマートフォンで利用することができるよう開発されたアプリを指しています。教科用特定図書とは、教科書バリアフリー法に基づき作成される教科書データで、これに対応するアプリで汎用性が高いものを、仮にデジタル教材アプリと呼びます。

デジタル教材アプリには様々な特徴のものがあります。しかし、アプリごとに対応しているOS(表1-4-1)やデータ形式(表1-4-2)が異なり、アプリとデータの組み合わせによっても、できることや使用感が異なるので、一通りの組み合わせを試してから、使う人に合ったアプリとデータを選ぶことをお勧めします[3]

表1-4-1. デジタル教材アプリが対応しているOS一覧
 WindowsAndroid, ChromebookiOS
ChattyBookBox
UD-Book
UDブラウザ  
表1-4-2. デジタル教材アプリが対応しているデータ形式一覧
 デイジーMP3EPUBHTMLTEXTPDF
ChattyBookBox     
UD-Book     
UDブラウザ

デジタル教材アプリを活用する際の参考情報

1.2.7 スイッチ、スイッチインターフェイス

本提案におけるスイッチとは、重度障害者用意思伝達装置等に使用される入力装置のことを指しています。このスイッチを、タブレット/スマートフォン、カメラアダプタ、スイッチインターフェイスと組み合わせて使用することで、重度障害者の方が自分で電子書籍のページをめくり、自分のペースで本を読むことができます。

国立障害者リハビリテーションセンターが作成している「意思伝達装置用スイッチ」一覧ページに、様々な種類のスイッチが紹介されています。例えば、手指が動く方は接点式スイッチの活用が考えられますが、他にも顔の動きや足の動きで操作するスイッチもあります。

スイッチ用インターフェイスは、スイッチボックスという名前でも販売されています。国立障害者リハビリテーションセンターが作成している一覧がありますが、価格に幅があり、製造中止になっているものもあります。加えて、使用しておられるタブレットやスマートフォンのOSに対応するもの、Bluetooth接続のものや有線接続のもの、有線接続の場合は接続端子の違いもありますので、組み合わせに注意して選んでください。

1.2.8 カメラアダプタ、タブレット用アーム

カメラアダプタ、タブレット用アームは、市販品です。家電量販店等で取り扱っています。

カメラアダプタは、スイッチとタブレット、スマートフォンを接続するために必要です。使用しておられるタブレットやスマートフォンのOS、差込口の種類に対応するもので、(USB機器の制御や給電ができる)OTG対応のものを選んでください。iOSの場合は、Apple社によるMFi認証を受けている製品を選ぶと良いでしょう。

タブレット用アームは机などにネジでがっちり固定することができ、操作時の揺れが少ないものを選んでください。コンパクトに収納できるものは、読書中に揺れて、気分が悪くなってしまうことが多いです。

2 どうやって使う道具なの?

2.1 紙の書籍を読む

目的端末アプリ方法
拡大して読むタブレット/スマートフォン、アーム拡大鏡アプリ→2.1.1
見え方を調整して読むタブレット/スマートフォン、アーム拡大鏡アプリ→2.1.1
音で聞いて読む音声読書機 →2.1.2
電子化して読むタブレット/スマートフォンUDブラウザ→2.1.3

2.1.1 紙の書籍を拡大したり、色を調整したりして読む

  • アームを机等に固定した上でタブレット/スマートフォンを取り付け、読みたい本を映します。
  • 拡大鏡アプリを使って、見え方を調整します。ピンチアウトすることで拡大します。色を反転させたり、コントラストを強めたりする設定画面は左下にあります。
アームで固定したタブレットを拡大読書器代わりに使っている様子

※拡大鏡アプリの設定画面は、フィルタ、コントラストの順にカスタマイズしておくと、操作が楽です。

2.1.2 紙の書籍を音で聞いて読む

  • 手前に読みたい書籍、奥に音声読書機(エンジェルビジョンデスクトップリーダー等)を置く。
  • アームを立ち上げ、電源を入れる。

※貸し出す際は、自動モードに設定して貸し出すと、簡単な操作で読むことができます。

2.1.3 紙の書籍を電子化して読む

  • 紙の本をスキャンしてPDF化する。UDブラウザで読み込み、閲覧する。

あるいは

  • UDブラウザの「OCRで書籍を作成」を使い、読みたい書籍の紙面を撮影し、OCRにかけて読む。

※紙面を撮影して電子化する方法は、プリントや頁数が少ないパンフレット等に適しています。

※紙の本を電子化して読む際は、著作権の保護にご注意ください。

2.2 音声図書(視覚障害者等用データ[4])を読む

目的端末アプリ方法
音で聞いて読むデイジー機器 →2.2
  • デイジー図書や音声図書、音声ファイル、テキストファイルを、CD-ROM、USB、SDカード等のメディアに格納する。
  • プレクストーク、ポケブックVineC1等のデイジー機器にメディアを挿入し、再生して読む。

※CD-ROM、USB、SDカードにデータを移す作業は、図書館員さんにお願いします。

2.3 電子書籍(一般書、視覚障害者等用データ、教科用特定図書)を読む

目的端末アプリ方法
電子書籍を読むタブレット
スマートフォン
スイッチ
電子書籍ビューア
電子図書館
→2.3.1
視覚障害者等用データを読むデジタル教材アプリ→2.3.2
教科用特定図書を読むデジタル教材アプリ→2.3.3

2.3.1 電子書籍を電子書籍ビューア、電子図書館アプリで読む

  • 電子書籍ビューア、電子図書館の利用者登録をした上でログインし、目的の本を選択する。
  • 各アプリの拡大、反転、音声読み上げ機能等を活用して、読みやすい形に調整する。
  • スイッチを利用する場合は、支援者がスマートフォン/タブレットをアームやケースで見やすい位置に固定し、電子書籍ビューアで目的の電子書籍を開いた上で、利用者がスイッチを利用してページをめくります。

※利用するアカウントは利用者個人のアカウントを使い、端末返却後にアカウント情報を消去してください。

2.3.2    視覚障害者等用データをデジタル教材アプリで読む

  • 国立国会図書館視覚障害者等用データ送信サービス、またはサピエに図書館として利用登録する。
  • みなサーチ(国立国会図書館障害者用資料検索サイト)、サピエ図書館から視覚障害者等用データをダウンロードし、デジタル教材アプリに追加する。UD-Book図書については、図書館間相互貸借制度を利用し、広島大学図書館に依頼する。
  • それぞれのデジタル教材アプリの拡大、反転、音声読み上げ機能等を活用して、読みやすい形に調整する。
  • スイッチを利用する場合は、支援者がスマートフォン/タブレットをアームやケースで見やすい位置に固定し、デジタル教材アプリで目的の電子書籍を開いた上で、利用者がスイッチを利用してページをめくる。

※国立国会図書館視覚障害者等用データ送信サービス、サピエには、個人も利用者登録することが可能です。しかし、テクノロジーを使う読書に初めてチャレンジする方のために、図書館として登録しておくことをお勧めします。

2.3.3    教科用特定図書をデジタル教材アプリで読む

  • デジタル教材アプリを開発している団体に問い合わせする。
  • 団体ごとに手続きや対応範囲が異なるので確認し、図書館、あるいは利用する個人、学校として利用申請をする。
  • 団体から提供された教科用特定図書のデータをデジタル教材アプリに追加し、拡大、反転、音声読み上げ機能等を活用して、読みやすい形に調整する。
  • スイッチを利用する場合は、支援者がスマートフォン/タブレットをアームやケースで見やすい位置に固定し、デジタル教材アプリで目的の電子書籍を開いた上で、利用者がスイッチを利用してページをめくる。

※デジタル教材アプリを開発している団体は、教科書バリアフリー法が定めるルールに則り、教科用特定図書を製作しています。団体によっては、(公共図書館に対し提供することができる)教科書以外のデータを製作していない場合がありますので、ご注意ください。

3 どんなものを準備しておく?――テクノロジーハブの場合

テクノロジーハブは、筑波技術大学という大学で運営されています。筑波技術大学は視覚障害者、聴覚障害者に特化した大学であるため、どんな機器を揃えたらよいか?という質問がよく寄せられます。そこで、前項で取り上げた読書支援機器を調達する際の参考となるよう、テクノロジーハブ関係者協議会、及び、図書館関係者の皆様の経験を参照し、図書館の皆様向けの組み合わせ事例について検討しました。この際、図書館の皆様に期待する役割を、テクノロジーを活用した読書にチャレンジするきっかけ作りと仮定して議論しております。

なお、図書館総合展における展示内容は、あくまでも一事例であること、また、いずれの機器も価格が変動する可能性がある点にご注意ください。また、アプリ自体は無料でも、アプリ内で課金があるサービスもあります。レンタルする場合は、借用目的や期間により価格設定が異なります。送料が発生することもありますので事前に十分お確かめください。

3.1 簡単操作機器セット

機種個数
1)音声読書機1台
2)デイジー機器できれば2台以上
3)タブレット/スマートフォンできれば2台以上
4)電子書籍ビューア
5)電子図書館アプリ
6)拡大鏡アプリ
7)スイッチ1つ
8)スイッチインターフェイス1つ
9)タブレット用アーム1つ
簡単操作機器セット一式の写真

上記のセットを揃えておくと、「2どうやって使う道具なの?」でお示しした方法を、一通り体験することができます。またこのセットは、障害者サービスに対応する職員がいない、あるいは、機器の説明をする余力がないような図書館にお勧めするセットです。直感的に使用することができる機器ばかりなので、最小限の人的コストで、テクノロジーを活用する読書の提案をすることができます。その代わり、機器にかかる費用が高くなります。また、デイジー機器とタブレット/スマートフォンはできれば2台以上あると貸与がし易くなります。

機器を用いた読書体験会を開催するために一時的に道具を揃える場合は、レンタルすることで初期費用を抑えることができます。ただし、販売店は購入を前提とした貸し出しをしていることが多いため、基本的には購入することをお考えください。 

3.2 操作説明や補助を必要とするが便利な機器セット

機種個数
1)デイジー機器できれば2台以上
2)タブレット/スマートフォンできれば2台以上
3)電子書籍ビューア
4)電子図書館アプリ
5)拡大鏡アプリ
6)デジタル教材アプリ
7)スイッチ1つ
8)スイッチインターフェイス1つ
9)タブレット用アーム1つ
操作説明や補助を必要とするが便利な機器セット一式の写真

上記のセットを揃えておくと、「2どうやって使う道具なの?」でお示しした方法を、一通り体験することができます。またこのセットは、障害者サービスを担当している職員の方が、ICTの取り扱いに苦手意識がない場合にお勧めするセットです。それは、利用者の方に合わせた端末の設定、操作方法のサポート、貸与する書籍データの管理等が発生するからです。しかし、一度やり方を見つけると、利用者の読める書籍の数や快適度が格段に向上します。

手間がかかる分、機器にかかる費用は抑えられます。また、デイジー機器とタブレット/スマートフォンはできれば2台以上あると貸し出しがし易くなります。

機器を用いた読書体験会を開催するために一時的に道具を揃える場合は、レンタルすることで初期費用を抑えることができます。ただし、販売店は購入を前提とした貸し出しをしていることが多いため、基本的には購入することをお考えください。

3.3 学校図書館向け機器セット

機種個数
1)タブレット/スマートフォン1台
2)電子書籍ビューア
3)電子図書館アプリ
4)拡大鏡アプリ
5)デジタル教材アプリ
6)スイッチできれば2つ
7)スイッチインターフェイス1つ
8)タブレット用アーム1つ
学校図書館向け機器セット一式の写真

学校図書館向け機器セットは、学校図書館においてテクノロジーを活用するきっかけを作るために必要最低限の機材を挙げています。それでも「2どうやって使う道具なの?」でお示しした方法を、一通り体験することができます。つまり、これらの機器を揃えておけば、教材の読み書きに何らかの困難があるかもしれないと思われる児童生徒が、どんな工夫をすると読みやすくなるか、検討することができます。

ただし、「1.2.6デジタル教材アプリ」でご説明した通り、OS、アプリ、データの組み合わせによってできることが異なります。また、教材のアクセシビリティは学習に影響しますので、児童生徒の状態をアセスメントし適切な教材を選定する必要があります。このため、テクノロジーが力になる可能性があると分かったならば、地域の点字図書館や特別支援学校の先生に相談し、専門的なアセスメントやフィッティングを進めることを推奨します。

3.4 購入予算について

以上の通り、テクノロジーを活用した読書にチャレンジするきっかけ作りを想定した機器セットを3パターン、ご提案いたしました。

なお、図書館が購入する際に使用することができる国の補助金は、残念ながらありません。とはいえ、レンタルやサブスクリプションですと、かなり費用を抑えることができます。一時的にでも道具を揃え、機器を用いた読書体験会を開催し、ニーズがあることが明らかになった場合は、本提案を参考に、予算化するよう組織に働きかけてみてください。地域の企業やコミュニティ財団等から寄付を集める、クラウドファンディングを行う等、資金を調達する様々な方法も検討してみてください。

 ニーズの有無とリソースの有無は、鶏と卵の関係です。今、声が上がっていない理由は、利用者が困っていても、図書館にリソースがあると思っていない可能性があることに注意してください。

3.5 障害者が福祉用具を購入する際は専門機関につなげてください

一方、障害者が福祉用具を購入する際には、補装具支給制度、日常生活用具給付等事業の対象として補助金が出る可能性があります。補装具支給制度は、身体機能を補完・代替する用具を給付する制度で、本提案においてはスイッチが重度障害者用意思伝達装置に該当します。日常生活用具給付等事業は、自治体により規定が異なりますが、音声読書機やデイジー機器が情報・意思疎通支援用具に該当することが多いです。

いずれも、利用する人の状況をアセスメントし適切な用具を選定する必要があります。また、補装具支給制度、日常生活用具給付等事業は、用具ごとの耐用年数を定めているため、合わない用具を選んでしまった場合に再給付を受けることができません。このため、障害者が読書のための機器を試用し、購入に踏み切る際には、点字図書館、特別支援学校、障害者ICTサポートセンター、当事者団体、医療機関等に所属する、専門知識を有する人に相談してから購入するように勧めてください。詳しくは、地域の市区町村障害福祉担当課にご確認ください。

また、タブレットについては学習用端末として購入補助を準備している自治体があります。こちらについては、地域の教育委員会に確認してみてください。

3.6 図書館総合展で展示した機器の取扱説明書

エンジェルビジョンデスクトップリーダー(音声読書機)

プレクストークPTN3(据置型デイジー機器)

ポケブック Vine C1(携帯型デイジー機器)

iPad(タブレット)

Kindle(アプリ)

拡大鏡(アプリ)

ChattyBookBox(アプリ)

UD-Book(アプリ)

UDブラウザ(アプリ)

スイッチ

4 貸し出す際の工夫は?

4.1 紙の書籍と音声読書機を組み合せて貸し出す

  • 音声読書機を購入した時の箱を活用し、紙の書籍と一緒に図書館バック等に入れて貸し出します。
エンジェルビジョンデスクトップリーダーと紙の書籍をセットで貸し出す様子

4.2 紙の書籍とタブレット/スマートフォン、アームを組み合わせて貸し出す

  • ネジで固定するアームはごつごつして分解しにくいものが多いです。このため、紙の書籍、タブレット/スマートフォン、アームをセットで貸し出す場合は、手渡しすることをお勧めします。
  • 保護カバーを付けたタブレット/スマートフォンを緩衝材やクッションケースで包み、紙の書籍と一緒に図書館バック等に入れて貸し出します。アームは三脚用の収納袋を利用して貸し出すと便利です。
紙の書籍とタブレット、アームをセットにして貸し出す様子

4.3 音声図書と据置型デイジー機器を組み合わせて貸し出す

  • クッション材がついたPCバッグ等に書籍メディアと同梱して貸し出す。
  • オーテピア高知声と点字の図書館では、100台以上の据置型デイジー機器を準備し、無期限で貸出しているそうです。このため、既にご自宅に端末がある場合は、音声図書を格納したCDやUSBのみを送付しています。
プレクストークとCDをセットで貸し出す様子

4.4 音声図書と携帯型デイジー機器を組み合わせて貸し出す

  • 端末とACアダプタをセットにし、ファスナーケース等で梱包して貸し出す。
  • オーテピア高知声と点字の図書館の一番人気は携帯型デイジー機器で、こちらも100台以上を備えておられるとのこと。送付する場合は、スマートレター(料金210円)を活用し、返送用スマートレターも同梱して送っておられるそうです。
  • インターネット上の記事で貸し出し方法の詳細が紹介されています。https://www.sgv.co.jp/case_studies/otepia_kochi.html
ポケブックVineC1を郵送で貸し出す様子

4.5 電子書籍とタブレット/スマートフォン、スイッチを組み合わせて貸し出す

  • オーテピア高知声と点字の図書館では、保護カバーを付けたタブレットにマルチメディアデイジー図書を格納し、さらに緩衝材で包み、ファスナーケース等で梱包し貸し出しています。(ゆうパック:送料60㎝820円を利用)
  • 小型のタブレット/スマートフォンやスイッチのみであれば、より安価な配送サービスを利用することができます。
タブレットを宅配便で貸し出す様子
タブレットとスイッチを宅配便で貸し出す様子

4.6 貸し出し時契約文書

館外貸出に際し、借用書や貸出規約を準備している図書館もあります。ここでは、テクノロジーハブが実施したアンケート調査において、複数の組織の文書に共通していた項目を掲載します。皆様の図書館で館外貸出を始める際の参考にしてください。

  • 借用書には、貸し出す機器の名称に加え、キャリーケース、ACアダプタ、取扱説明書等、貸し出す物品を網羅的に明記するようにしている組織が見受けられました。
  • 禁止事項としては、目的外使用、第三者への転貸・転売・譲渡、機器の分解、解析、改造、設定変更を記載する組織が多くありました。
  • 損傷、紛失時の対応としては、故意や不注意によるものは弁償とする組織が多いです。また、損傷、紛失時にすぐに連絡をするよう記載している組織がありました。
  • 修理費用は、使っている機器や経年劣化の度合により異なります。オーテピア高知声と点字の図書館では、例えばデイジー機器の場合、一台当たり年間2万円程の修理費用が発生しているとのことでした。このため見通しがつくまでは、年間にかかる修理費用も見込んで準備しておいた方が良いでしょう。

借用書の内容

  • 物品名
  • 数量
  • 期間
  • 住所
  • 氏名

貸出規約の内容

  • 規約について
  • 事業の目的
  • 事業の対象者
  • 貸し出し手続き
  • 貸し出し期間
  • 禁止事項
  • 損傷、紛失時の対応
  • その他 

4.7 在庫管理や返却された後の管理はどのようにする?

4.7.1 在庫管理

在庫管理の方法は、貸し出し簿やエクセル等でアナログに管理している組織が多いようです。図書館の場合は、図書館システムを活用している事例が見受けられました。

4.7.2 返却後の作業

機材が戻ってきた後の作業としては、返却物品の確認と在庫管理、読書支援機器のクリーニング、個人情報の消去、動作確認等が発生します。館外貸出を行う際は、返却時の対応や作業が発生しますので、そのための人員と時間を見積もっておく必要があります。


この度は、テクノロジーハブの出展に興味を持ってくださり、ありがとうございます。

よろしければ、本提案に関するご意見、ご感想をお聞かせください。

https://forms.gle/npnNiPLjWVKuF1yw5

文部科学省令和6年度読書バリアフリーコンソーシアム事業

筑波技術大学読書バリアフリーコンソーシアムテクノロジーハブ

読書の際に使用する機器館外貸出に関するご提案

発行日:2024年10月31日

発行:筑波技術大学読書バリアフリーコンソーシアムテクノロジーハブ事務局

〒305-8520 茨城県つくば市天久保4-3-15 TEL: 029-858-9015 Email: chihoko.aoki★a.tsukuba-tech.ac.jp (★を@に変えて送信してください)


[1] 詳しくは、ウェブアクセシビリティ基盤委員会ウェブサイトを参照 https://waic.jp/

[2] 国立国会図書館「電子図書館のアクセシビリティ対応ガイドライン1.0」https://www.ndl.go.jp/jp/support/guideline.html

[3] この箇所に記載した表は、AccessReading「音声教材情報提供サイト」を参照して作成しました。 https://accessreading.org/aem/

[4] 視覚障害者等用データとは、著作権法第37条の権利制限規定などに基づき、視覚障害その他の理由で通常の活字の印刷物の読書が困難な方のために製作されたデータです。詳しくは、国立国会図書館「視覚障害者等用データ送信サービス(図書館等向け案内)」を参照 https://www.ndl.go.jp/jp/library/supportvisual/supportvisual-10_02.html